古来より日本では、祭礼や神事といった特別な儀式を行う際に、酒や肉などの飲食を慎み異性との交流を絶つことで身体を清めてきました。この儀式が終わり身を清めた状態から通常の生活に戻ることが、もともとの意味の精進落とし(精進開け)です。この言葉は人々の生活の中で意味を変化させていき、仏教においても使われるようになります。仏教では親類に不幸があったとき、四十九日法要までの間を精進期間として、精進料理が食べられてきました。そして、四十九日の忌明けが済み、普通の生活に戻る際の食事が、精進落としと呼ばれるようになりました。
近年では忌明けの考え方が変わり、初七日法要までが精進期間とされています。そのため、一般的に初七日法要の後の会席を精進落としと呼ぶようになりました。さらに、法要や忌明けの考え方も変化し、葬儀当日に繰上げ法要として初七日法要を組み込むことも、近ごろでは珍しくありません。それとともに初七日法要後の精進落としも意味を変えました。現在の精進落としは、葬儀が終わったあとの慰労を兼ねた会席として捉えられるようになっています。
通夜振る舞いの流れは、通夜の会葬の終了後、喪家や司会者の案内で別室に用意した会食場に移動します。大勢の参列者がいる場合は、焼香を終えた人から次々に会食場に案内され、飲食が始まる場合もあります。一般的には、通夜が閉式したあとに、喪主による弔問のお礼の挨拶をきっかけに始まることがほとんどです。会葬者は遠慮せずに、供養の意味で食事と飲み物などをいただきましょう。通夜のあとに他に予定がある場合も、ほんの少し口にするだけで構いませんので、通夜振る舞いの案内があれば参加しましょう。
ただし、満腹になるほどの食べ過ぎや酔いが回るほどの飲み過ぎは禁物です。喪主や遺族は、弔問に来てくれた会社関係者、友人や知人などに順次テーブルを回って挨拶をします。食事や飲み物に手を付けていなければ、声をかけて必要に応じて取り分けるなどしましょう。会葬者は、故人の思い出を語るときは話題の内容に気をつけましょう。また、死因をしつこく尋ねるのはタブーです。場を盛り上げようとして大声で話したり、大笑いしたりする必要もありません。通夜振る舞いの席は、一斉にお開きということはなく、会食と遺族との会話が終われば、数十分程度でそれぞれ退席することが多いです。通夜の開始に間に合わない参列者もいるため、しばらくはそのままにしておきますが、だいたい2~3時間程度で切り上げることになるでしょう。
故人の旧友が集まり、名残惜しく立ち去り難い気持ちもあるでしょうが、いつまでもその場に留まるのは遺族の負担にもなりますので、別の場所に移動するなどして退席するのがマナーです。退席する際に遺族に一言声をかけて帰りますが、長く話し込んで引き留めないようにします。他の弔問客との会話中であれば、その前に挨拶が済んでいるなら無理に声をかける必要もありません。
コロナ禍では、通夜に限らず葬儀全般に対する意識が変化しています。会場側、遺族側、参列側それぞれが、徹底した感染予防対策が必要です。葬儀は親族や友人知人など多くの参列者とともに、会場スタッフも集まることになるため、密閉・密集・密接の三密を避けるために、規模を縮小して行うケースが増えています。特に、飲食時における感染リスクが格段に高いため、コロナ禍では通夜振る舞いをしない葬儀も多くなりました。
また、会場側で、大勢による通夜振る舞いを規制しているところも多いです。そのため、通夜振る舞いの料理を個別に折り詰めやお弁当にして会葬御礼として手渡すスタイルが増えています。このような持ち帰りスタイルなら、マスクを外して会話しながら飲食することが防げます。また、長時間、換気の悪い室内で大勢が一堂に会する時間を少しでも減らすことができれば、それだけ感染のリスクも減らせるでしょう。遠路駆け付けてくれた会葬者の健康を守るためにも、コロナ禍のご時世ではやむを得ません。
たとえば、高齢の親族や弔問客がいる場合も、通夜振る舞いをしないことがわかれば、安心して会葬できるのではないでしょうか。お通夜の日時を知らせるときには、一言通夜振る舞いは持ち帰りスタイルであることを申し添えれば、会場や遺族がしっかりとコロナの感染予防対策を行っていることが伝わり、信頼して参列してもらえるでしょう。
精進落としは、もともと身を清めた状態の期間を終え、通常の生活に戻ることを指していました。時代とともにその意味は変化し葬儀の際に執り行われる会席として理解されるようになりました。現代の精進落としは葬儀参加者への慰労を兼ねています。そのため、精進落としを用意する者は参加者をねぎらう気持ちが大切です。精進落としに出席する参加者もまた、故人を偲ぶ気持ちだけでなく、遺族への配慮を欠かさないようにしましょう。
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